HONDA の戦略
世界的な自動車産業の減速はとめどない。
TOYOTA、HONDA、NISSAN、MAZDA・・・いずれも生産ラインの縮小、派遣・期間従業員の削減等が続いている。
自動車、家電、半導体等日本の製造業の主力はいずれも巨大な装置産業のため、一昨年までの好況故の生産拠点拡大が、今は逆に大きな打撃だ。TOYOTA生産方式(TPS)はこの装置産業の問題を解決する手法の一つとして世界的に導入が進んだものの、昨年来の需要急減にはさしものTPSも歯が立たない。
こうした中でホンダの対策が印象的だ。
■迅速な撤退策
工場での減産・停止、派遣社員・期間従業員の削減等自動車各社は次々に対策を打っている。会社によっては所謂「派遣切り」でマスコミに大きく報道されている例があるが、装置産業としての自動車会社は、稼動率を下げての在庫圧縮と流出する費用の削減のためには当面人件費削減は必須だろう、これは製造業では皆同じだ。ただ、企業毎に事情は異なるから「ワークシェアリング」或いは工場稼動日減少で人件費・エネルギーコストの削減で乗り切ろうとするケースもあろうが。
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/081205/biz0812051144006-n1.htm
こうした対策の他、ホンダは昨年来いち早く「F1撤退」「鈴鹿8耐中止」を打ち出した。これらはホンダの歴史を良く知る人達には大きな驚きだった。
「F1」はホンダが4輪ビジネスに本格参入しようとした頃からの歴史があり、数年前まではホンダが経営する「鈴鹿サーキット」で毎年行われてきた世界最高峰と言われるレースである。
「鈴鹿8耐」はやはり鈴鹿サーキットで行われる2輪の「鈴鹿8時間耐久ロードレース」であり、30年以上の歴史がある国内最大級の2輪ロードレースだ。
ホンダは創業者「本田宗一郎」が創業時からレースに情熱を傾けてきており、2輪4輪ともレースで培ったスポーティーな味付けがホンダ製品の大きな特徴である。
F1ではここ数年不振が続いていたものの、レースの血が流れていると言われるホンダの撤退インパクトは大きい。
しかし、冷静にF1レースを眺めると理解できないこともない。年間の参戦費用はトップチームで500億円からそれ以上とも言われ、また、ここでの技術的な成果は必ずしも製品に反映できるようなレベルではなく、こうした優秀な技術者を製品開発に向ける効果は大である。ラリーのWRCも同様で、SUBARUも撤退を発表している。
この撤退は、直接的な支出の削減もあるが、あのホンダがレース撤退するという危機感を社内外に印象付け、これから本気で立て直しをするぞという社員の意識統一を狙ったメッセージでもあろう。
■グローバルビジネス
ホンダの事業領域は結構広く、自動車、2輪車の他、航空機、耕運機等まで手がけている。
自動車が何といっても最大ビジネスだが、2輪車も大きなビジネスで特にアジア地区では欠くことが出来ないものとして定着しており、シェアも大きい。
あの超優良企業と言われたトヨタの不振は驚くべき事態だが、トヨタ、ホンダの生産・販売実数を見ると各社の事情がよく判る。(‘08年データ)
ホンダは日本の自動車会社では最もグローバル化が進んでいて、海外での販売は85%!生産は国内が32%だ。一方、トヨタ(ダイハツ、日野含)も海外での販売は77%で、生産は国内が53%だ。
いずれも80%前後の海外販売比率で日本メーカーのグローバル化は進んでいるが、国内の一般ユーザーの認識は相当異なるだろう。
ここで両社の違いは国内生産の比率だ、トヨタは半分以上が国内だが、ホンダは1/3に過ぎない。トヨタが苦悩するのは生産を縮小する場合、ウェットな雇用関係の日本国内で大きく手を付けざるを得ず、名古屋等での雇用対策は難しかろう。この点、ホンダは海外生産比率が高い分、各国に工場が分散しており、地域毎の対策は比較的早めに実行できるだろうし、経営側のグローバル意識も進んでいるのもあろう。
■製品戦略
・プリウスとインサイト
北米での販売比率はいずれのメーカーも高いが、小型のため影響が少ないと思われていた日本車も例外では無くなってきた。さしものトヨタプリウスも販売は落ち込んでいる。北米での自動車販売が回復するには経済全体が底を打たないかぎり難しい。車必須のアメリカ人でも日常生活の維持のためには車どころではないのだろう。
ここでの製品戦略は「低燃費」「低価格」が重要だ。今回ホンダが発表した新型「インサイト」は新型「プリウス」に比較して若干燃費性能は下回るが、価格設定をかなり下げており、日本では200万円を切る価格と言われている。こうしたどん底の経済下ではスーパーの低価格品好調と同様に車も同じ戦略を採らざるを得ないと踏んでいるようだ。
「エコ替え(買え?)」だけでは無理で低価格での一押しがポイントだろう。これを見てトヨタも新旧プリウス併売を発表、当然旧モデルの価格引下げ策を打ち出したが。
世界的にもプレミアムブランドの「メルセデス」「BMW」は不振だが、「VW」は販売好調だ。
・新排気ガス規制への対応
http://www.jama.or.jp/lib/jamagazine/200812/06.html
この自動車不況に加え、環境問題として排ガス規制ものしかかる。
アメリカはオバマ政権が地球環境問題への対策を本格化することを表明しており、ビッグ?スリーももう逃れられない。
既に米国での「Tier2」,欧州での「EURO5/6」,日本での「ポスト新長期規制」規制は着実に進んでおり、単独の車種の排ガス値だけでなく、対策に不利な大型車の多いメーカー、高出力車メーカーは車種構成の見直しから企業合併まで検討せざるを得ない状況だ。事実、PORSCHEはその起源は同一とはいうものの、VWの親会社となってしまった。
この点ではホンダは大型車が少なく、中小型車中心の製品構成で排ガス対策も進んでおり、新「インサイト」の販売、水素燃料車「FCXクラリティ」のパイロット販売が開始されている。
・迅速な市場選択
最も販売不振の市場は北米で▲14.1%、次いで国内▲7.3%、欧州▲6.6%と続く、しかし、アジアは+7.3%で、特に中国はまだ伸びる市場だ。
各地での減産を実施する中、ホンダは中国での伸びを見込み東風本田(シビック等を生産)で生産を倍増させる決定をした。アコードを生産する広州ホンダは変えないようだが小型低価格クラスは強化する戦略だ。
国内でも「フィット」と「フリード」は販売が好調で、「フィットは」‘08年販売台数トップとなり、「フリード」は‘08年下半期ミニバンでトップとなった。
当面、低価格での戦いが続くと思われ、高価格帯製品の多いメーカーは苦戦が避けられず、トヨタ、日産のプレミアムクラスの先行きが注目される。トヨタのLEXUS販売店は広範囲に国内展開されたが、日産の「INFINITY」,ホンダの「ACURA」はいずれも国内展開は見送られたままで、今後更に遠のくだろう。
■再生の旗印
この再生のプロセスでトヨタとホンダの旗印の違いが象徴的だ。
冒頭の「F1撤退」を発表したホンダに対して、トヨタは「大政奉還」と言われる豊田章男副社長の社長昇格を発表したことだ。これはいずれの企業にとっても連綿と流れる歴史、血のようなものを感じる。F1はホンダの血であり、撤退はホンダ社員にとって象徴的な出来事。一方、トヨタは国内の生産拠点の統廃合、人件費の削減は名古屋の人・身内にこだわりを持ちたい文化にとって、大政奉還は大きな共同体が納得するための御旗なのである。
ただ、これまでを見るかぎりホンダは従来からの戦略が着実に実行されてきているように見え、むしろ施策が一層加速しているようだ。抱える課題解決には素早い施策が必要ということだ。
トヨタはその規模の巨大さ故に対策実行は一層難しいと思われるが、生産・販売の固定費削減は急務だ。最近国内の販売店統合計画を発表したが、苦悩する販売会社の対策は長年の課題だ。しかし、これには「車種の整理」が必要で、同一車台からの多数の派生商品を整理し力の入った主力車種に絞るべきだ。
これだけ車が売れない時代に中途半端な車を買ってくれというのは無理。ホンダも中途半端な車種が見受けられるが、アコード、シビック、オデッセイ、インサイトらの主力商品は明確だ。「インサイト」は必ず世界的なベストセラーになるだろう。
冒頭の「F1撤退」は中期的な戦略を確実に実行するための重要な最初の一手であるような気がする。うまくいけば世界で最も早く回復する自動車会社となるのではないだろうか。
モータースポーツはそれからでも遅くない、その時はハイブリッドカーレースか水素燃料車レースかもしれないが。
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